映画『トールキン 旅のはじまり』雑感

この記事は@TolkienWriting さんのイベント #TolkienWritingDay に参加したものです。

 

(ネタバレ多数あります)

 

映画についての事前知識をなるべく入れずに観に行ったためなかなか楽しめましたが、なんかセンチメンタルに振り過ぎていてちょっと悶えるというか胸焼けしそうというか(笑)

 

物語はトールキンの寄宿学校時代からオックスフォード時代のエピソードと、ルシアンもといエディスとの恋愛を中心に第一次大戦塹壕戦のシーンを挟んで進んでいきます。

 

中でも寄宿学校の同級生四人の友情がストーリーの大きな軸となっています。個人的には男子高出身者としてああいうノリには親近感が湧きます(爆)。あそこまで美しくも崇高でもないですが30年近く経ったいまでも腐れ縁みたいな付き合いのあるのは何人かいますし。

 

そしてとにかく風景と音楽が綺麗。また、ちょくちょく原作の描写やロード・オブ・ザ・リングのワンシーンをイメージさせるカットが入るのもまたファンとしては美味しいです。興味深かったのは、その一方で原作の文章の引用がほとんど出てこなかったことで、あくまで"映像として"原作へのオマージュを表そうという監督のこだわりが感じられました。

 

エピソードにも、サムのように忠実な兵卒や、エオウィンのように自由に焦がれるエディス、メリーやピピンのように絆を誓い合う仲間たち...どこか見覚えのあるものが。「そうか、指輪物語のすばらしい描写にはこんな経験が生かされていたのか」と頷きながら「いやでもこれたぶん指輪をとことん読み込んだ監督が原作を投影して想像したシーンだよね...?」と我に返ったり(笑)。

 

個人的にはC.S. ルイスが出てこなかったのが残念。ルイスとの交流や宗教論争などの逸話も好きなのですが。まあドキュメンタリー番組としてならともかく、映画としては地味になりすぎるかしら。

 

映画はトールキンが『ホビット』を執筆し始めるシーンを最後とし、エディスとトールキンの没年と、かの墓碑銘に触れて幕を下ろします。

 

あくまで文字としてはスクリーンに現れませんでしたが、監督の意図していた結びの言葉は、間違いなく私たちの胸に伝わっていたものと思います。

 

「そして二人は一生を終えるまでずっと幸せに暮らしました。」と。