働かざる人々

子供の頃に指輪物語を読んだとき、疑問に思っていたのは、フロドたちの仕事ってなんなんだろう?......ぶっちゃけ、生活費をどうやって稼いでいるんだ? というものでした。だってどうみても働かずにぶらぶらしたり本を書いたりして暮らしています。

 

最後まで読んでも結局具体的には書かれてませんが、実は本編の一番冒頭のとっつあんのセリフ

"A very nice well-spoken gentlehobbit is Mr. Bilbo (ビルボ旦那は言葉使いの練られたそりゃあいいお人さ)"

のところにその手がかりがありました。

英語のgentlemanは現在では男性に対する丁寧な呼称として一般に用いられ、通常「紳士」と訳されますが、元の意味はgentry、「郷紳」と訳される地主貴族層のことを指します。ですのでこれを文字通りに解釈すれば、バギンズ家はそこそこの広さの農地と小作人を抱えた大地主であり、十分な不労所得があるに違いないということです。そらまあ、ぶらぶらして本を書いていても大丈夫かと。トゥック家、ブランデーバック家をはじめ、誕生日会で名前の挙がった家はそれぞれ大なり小なりそのような地所をもった階級なのでしょう。

 

一億総中流と言われた我々の世代の日本人にはあまりイメージが湧かないのですが、近代まで(現代でも?)身分階級がはっきりわかれていたというのがイギリスです。トールキンの世代ではまだ、そういった地主階層がそれなりにたくさんいたのでしょう。常識レベルなのでいちいち細かく説明する必要を覚えなかった可能性が高いです。

 

そうすると指輪の仲間で労働者として働いた経験があるのはサムぐらいでしょうか。ボロミアは執政の長男でレゴラスは王子。トーリンやグローインの世代は苦労していますが、ギムリが産まれたのはトーリンがエレド・ルインに落ち着いた後のようですので、やはり王族の扱いでしょうか。ガンダルフは、まあ、なんとでもなるでしょう。いざとなったら霞を食べて(煙をふかして)いれば大丈夫そうです。アラゴルンは身をやつしてあちこちでいろいろやっていたのでその中では労働者っぽいことも少しはしたかもしれません。その意味ではもっと謎なのは野伏たちの基本的な収入源です。狩人や薬草売りで食っていくにも限度があるでしょうし表舞台に上がることなく1000年以上も......エルロンド卿がパトロンとして養っていた、ぐらいしか思いつきません。